我が国の犯罪発生率は、発展した国々の中では低いレベルにあります。この比較的良好な状態を支えている重要なものに、刑事司法体系が違法行為を厳正に取り締まり、刑罰を与える態勢をもっていることが挙げられます。社会を平安に保つために、この先も刑事司法体系はその態勢を保たなければなりません。

一方で、薬物乱用や窃盗、痴漢、放火、ストーカー行為等は刑罰で対応しても再び同じ行為が繰り返されることがしばしばあります。これは、それらの違法行為に対して判決の内容や刑罰の再犯予防効果が限定的であることを示しています。その原因は反復される違法行為の多くが疾病状態に基づくので、刑罰の効果が対応しないからです。反復傾向のある違法行為には治療も必要なのです。

しかしながら、医療施設の多くは、反復される違法行為に対応することに消極的です。これは思考では止められない行動が生じるメカニズムの正しい理解と効果的な治療が広まっていないこと、並びに、患者の違法性を医療従事者が取締機関に通報するか否かの方針が定まっていないことが挙げられるでしょう。この不良な医療の態勢は、一旦違法行為を生じる疾病に罹患した多くの人に服役を反復させ、また、悲惨な事件の原因となる疾病を放置するものになります。

当院では条件反射制御法を用いて平成18年から物質使用障害への対応を開始し、後に、病的窃盗、性嗜好障害、病的放火、ストーカー行為等へ適用を広げ、高い効果を上げております。また、その技法に対するヒトの反応を検討し、行動原理を把握したことから、疾病状態が影響して生じる違法行為に刑罰と治療を円滑に提供する準備をして、初犯も再犯も効果的に予防する制度を構想しました。

この研修会ではまずはヒトの行動原理を解説し、それに基づいて違法行為が反復されるメカニズムを示し、その行為の原因となる疾病状態に対する治療法をお伝えします。その後、現在の刑事司法体系の不備を確認し、精神科医療とその周辺の機関で構成される刑事司法体系と治療体系が成立させるべき連携のあり方、並びに、限定的ではありますが、その実践をお伝えします。研修の最後には改訂刑法私案を示し、違法行為を反復する者の疾病性と犯罪性に対して、行動原理に従って合理的に治療と刑罰を言い渡す裁判のロールプレイを行います。反復される違法行為に効果的に対応する技法と制度に関して理解が深まるはずです。

皆様のご参加をお待ちしております。