下総精神医療センター

ご挨拶

第14回条件反射制御法研修会 開催に際して

条件反射に関する初めての報告は、1903年にマドリッドで開催された国際生理学会においてパヴロフによりなされました。それから一世紀以上を経た2006年6月1日に、パヴロフ学説に従った方法を用いて下総精神医療センターで覚醒剤に対する欲求を抑制する試みを始めました。その試みにおいて手応えを感じ、検討を重ね、手順を整え、現在では条件反射制御法と呼び、当院の専門病棟では反復する逸脱行動に対するプログラムの根幹として用いています。

条件反射制御法を用いて当初から対象にした物質使用障害は、早くから、欲求が生じない状態に至らせることができるようになりました。

臨床でこの技法を用いながら検討を進め、ヒトの行動の中枢は過去の生理的成功行動を反射で再現する第一信号系という無意識的な中枢と、未来に社会的成功行動を思考して創造しようとする意識的な中枢の2つがあり、第一信号系の特定の反射連鎖が過剰に作動することにより、決意に反した行動や不快な自律神経症状や気分が生じることを把握しました。また、その反射連鎖の作動を制御するには、終末に生理的報酬を生じさせない設定で標的の行動あるいは神経活動を反復させることを基本に保ち、変更の対象とする反射連鎖の要素となる反射が先天的か後天的かの差異、過酷な体験の有無あるいは程度、反射の回復性に着目した手順あるいは調整を条件反射制御法の構成に組み込みました。

上記のそれぞれを何年か毎に気づき、当初の条件反射制御法に改善を重ね、現在では、物質使用障害だけでなく、心的外傷後ストレス障害や反応性抑うつ、病的窃盗、病的賭博、痴漢行為、ストーカー行為などの本能行動の過剰な作動に対しても高い効果が見られています。また、他の働きかけとの連携のあり方も明確になりました。

条件反射制御法の基盤理論には、第一信号系と第二信号系の優勢な側が行動を作るというものがあります。それは、精神活動を統合して行動を制御する機能が前頭葉に集中しているとする一般的な考え方と摩擦します。また、認知や意思、動機などの言葉が表すところは、環境からヒトが刺激を受け、第一信号系と第二信号系が反応して行動が生じるまでの過程の途中で意識の表層で第二信号系により観察されたものであると把握するべきです。

そのようなことから、条件反射制御法の基盤理論は、多くの治療技法に見直しを迫るものでありますが、ヒトが行動する本当のメカニズムを相当な程度に把握しており、摩擦するように見える治療体系と刑事司法体系に関しては反復する違法行為に対する効果的な連携を成立させる理論になると考えています。

研修会ではヒトが行動する本当のメカニズムと条件反射制御法の進め方をしっかりとお伝えし、一部では刑事司法体系のあり方にも触れます。

今回の研修会は新型コロナウイルス感染症の流行のために延期となったものを、オンラインに変えて開催するものです。遠くの方にも参加していただきやすくなりました。多くの方がこの研修会に参加され、条件反射制御法とヒトが行動する本当のメカニズムを知り、治療体系と刑事司法体系の連携を再検討することをお願いいたします。

2021年7月
独立行政法人国立病院機構 下総精神医療センター
平井 愼二

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