下総精神医療センター

ご挨拶

第18回条件反射制御法研修会 開催に際して

宇宙が生まれ、太陽の周りを地球が回り始め、地球上に生物が誕生し、進化しました。大地に根を張るようになった群が植物で、神経活動で活発に行動するようになった群が動物です。動物の内、何らかの行動をして生きることに成功すればその行動の再現性が高くなる性質、並びに何らかの行動をして生きることに失敗すればその行動の再現性が低くなる性質を併せもつ群が生き残りました。それらの2つの性質を動物の行動に現す中枢をパヴロフは第一信号系と名付けました。

生き残った動物の中で立ち上がり始めた群は、視認下で自由な手指の作業により生きることに成功し、中枢作用のみで行動を展開するようになりました。その精神作用を司るもう一つの中枢を持つようになりました。その群が直立二足歩行をするヒトであり、その新たな中枢はパヴロフが第二信号系と名付けたものです。

臨床で対応する不良な結果に終わる行動を反復する病態は、過去には、ただ不思議で、効果的な治療ができませんでした。しかし、覚醒剤乱用者が売人を見ると便意を催すという患者の話から調査を経て、条件反射制御法を開始し、発展させる経過においては、困難な症状に出会う度に進化の現象に照らし合わせてヒトが行動するメカニズムを把握し、手順を整えて現在の条件反射制御法を成立させました。その技法は、現在では薬物や酒に対する欲求を容易に消し、万引きや痴漢行為を生じさせる欲求にも高い効果を発揮するようになりました。このように条件反射制御法が広く強い効果を示すのは、その技法の実践と検討により把握したヒトが行動するメカニズムが正しいからだと考えています。

従って、この技法の普及は、精神科領域の技法の整理のみならず、薬物乱用や窃盗、痴漢等の違法行為を反復するヒトへの、現在の刑事司法体系による焦点の外れた対応にも変革をもたらすはずです。この研修会は同一逸脱行動の反復に対応する全ての領域の方に、実務を見直す材料を示すものになるでしょう。

この研修会は久しぶりに現地に集合して行いますので、講義中に看護師による患者に対する指導の実演、並びにご希望の方には研修会に続いて万引きや痴漢の疑似をする部屋などをご覧いただきます。

今回の研修会開催につきましては、当院の都合により日程の変更があり、皆様にご迷惑をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。

この研修会を多くの方に、ヒトが行動するメカニズムと欲求や衝動を消す技法、同一行動の逸脱した反復に対応する社会制度について、再度検討する機会にしていただきたいと思います。ぜひ、ご参加ください。

2024年3月
独立行政法人国立病院機構 下総精神医療センター
医師 平井 愼二

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