ご挨拶
第19回条件反射制御法研修会 開催に際して
宇宙が生まれ、太陽を中心に地球が回り、地球上に生物が誕生しました。生物の内、何らかの活動をして生きることに成功したときにその活動の再現性が高くなり、失敗したときに再現性が低くなる性質をもつ群が生き残り、進化しました。大地に根を張った群が植物で、神経活動で活発に動く群が動物です。動物も前記の性質を基に生命を繋ぎ、一部が立ち上がり、ヒトになりました。
ヒトの行動を司る中枢も進化の結果であり、前記の性質を基にしています。
社会的にも身体的にも不良な結果に終わる行動を反復する病態は、過去には、ただ不思議で、効果的な治療を提供できませんでした。しかし、覚醒剤乱用者が売人を見ると便意をもよおすという患者の話から調査を経て、条件反射制御法を開発しました。この技法は当初は薬物乱用や飲酒等の後天的な反復行動に限って用いていました。後に万引きや痴漢行為等の先天的な行動が過度に生じる状態も対象とし始めた際には、さまざまな難解な問題に出会いました。その度に、進化はどのように展開したかを推察し、ヒトの中枢作用を前記の単純な性質だけから想定して、手順を整えて現在の条件反射制御法を成立させました。
条件反射制御法は、現在では反復する神経活動に広く強い効果を発揮するものになりました。その要因は、ヒトが行動するメカニズムに関して、技法の実践と検討を通じて正しく把握したからだと考えます。
そのメカニズムは、欲求に対してこれまでの治療技法は効果が低い理由、並びに刑務所に同一違法行為を反復した者が多い理由を説明しきるものです。この研修会の内容は、同一逸脱行動の反復に対応する全ての領域の方に、実務を見直す材料を示すものになります。多くの方に、ヒトが行動するメカニズム及び反復する行動に対する技法と司法について、再度検討する機会にしていただきたいと思います。
参加される方には当院にお越しいただきますので、講義中に看護師による仮想患者に対する指導の実演、並びにご希望の方には講義に続いて万引きや痴漢の疑似をする部屋などをご覧いただきます。
今回の研修会は、私が当院の職員として講義を行う最後の回となります。
これまで多くの方々のご支援とご意見をいただき、回を重ねるたびに内容を向上してまいりました。
皆様には奮ってお運びいただきたく、お願い申し上げます。
2024年12月
独立行政法人国立病院機構 下総精神医療センター
医師 平井 愼二