下総精神医療センター

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研修情報

第五回薬物乱用対策研修会 > 研修会プログラム > 第17講義

薬物乱用者に対する更生保護のかかわり

 

                               法務省法務総合研究所
                              室長研究官 岡田和也

  

T はじめに−更生保護の概要
 更生保護とは,保護観察,矯正施設収容中の者等に対する生活環境調整,心神喪失者等医療観察法に基づく精神保健観察等多岐にわたる。その実施に当たり,国家公務員である保護観察官・社会復帰調整官のほか,保護司,更生保護施設職員,協力雇用主といった民間ボランティアに支えられている。
このうち保護観察は,保護観察対象者の再犯・再非行を防ぎ,改善更生を図ることを目的として,保護観察官と保護司等が面接等の方法により接触を保ち行状を把握するなどの指導監督を行い,また,住居確保や就職援助等の補導援護を行うことにより実施される。

U 保護観察における薬物乱用者の現状
 平成23年中に新たに保護観察に付された者のうち仮釈放者(女子)では,主たる罪名が覚せい剤取締法違反である者が39.2%で最も多く,仮釈放者(男子)及び保護観察付執行猶予者(男子・女子)では窃盗に次いで多い。一方で,主たる罪名が覚せい剤取締法違反の保護観察付執行猶予者のうち,期間の途中で再犯や遵守事項違反を敢行するなどして執行猶予が取り消された者は約37%に上り,それ以外の罪名の者と比べて10ポイント以上高い。

V 保護観察における薬物乱用者対策
1 刑事施設受刑中の段階
 全国の保護観察所では,覚せい剤等の自己使用による受刑者の家族その他の引受人を対象とした「家族会・引受人会」を実施している。講師等の協力者として,ダルク等薬物依存症リハビリテーション施設や自助グループ(以下「ダルク等」という。)の代表者・スタッフ,精神保健福祉センター職員,医療機関の精神科医・職員等の協力を得ている。
2 保護観察の段階
 仮釈放者及び保護観察付執行猶予者のうち一定の条件に合致する覚せい剤事犯者に対して,「覚せい剤事犯者処遇プログラム」を実施している。これは,ワークブックによる教育課程(認知行動療法を基盤とする。)及び簡易薬物検出検査から構成され,保護観察官が5回(おおむね2週間に1回)実施するものである。特別遵守事項に設定して実施し,特段の理由がなく不受講であった者は,遵守事項違反により仮釈放又は執行猶予取消しの対象となる。
また,特別遵守事項で義務付けされなかった者に対しては,本人の自発的意思の下での簡易薬物検出検査を実施している。
 現在,刑の一部執行猶予制度の導入が審議されており,これを見据えて,従前のプログラムを発展させた新たな処遇プログラムが,平成24年10月から施行された。新たな処遇プログラムの特徴は,@覚せい剤以外の規制薬物の自己使用に係る罪の者に対しても適用できるように改変されたこと,A5課程の教育課程(コアプログラム)に加えて,その内容の定着を図ることを目的とした教育課程(フォローアッププログラム,月1回程度)から構成されること,B個別処遇だけでなく集団処遇による手法も導入されたこと等が挙げられる。
 さらに,近年ダルク等との連携が急速に進んでいる。平成23年度から,適当な住居がない薬物事犯者については,「自立準備ホーム」として保護観察所へ登録しているダルク等に,宿泊場所の供与等を委託することを開始し,24年度からは,「薬物依存回復訓練」も委託できるようになった。この他,精神保健福祉センターや医療機関等地域における関係機関等と連携が進んでいる。
これら関係機関等との連携の概要をまとめたものが,以下の図である。

                                        (出典:「平成24年版 犯罪白書」269頁)


W おわりに−今後の課題
 第一に,刑事施設で実施されている特別改善指導における処遇プログラム,保護観察所で実施されている専門的処遇プログラムのいずれも,その効果検証は分析途上であり,公表の段階には至っていない。今後,その効果検証の分析結果に基づき,既存の処遇プログラムを改変等することが必要と考えられる。
 第二に,刑事施設及び保護観察所における指導・援助は,裁判で言い渡された期間内においてのみ実施できるものであり,受刑者はいずれ釈放されて地域の中で生活することとなり,保護観察対象者もその期間が経過した後は,保護観察官,保護司,更生保護施設職員等の指導下から離れる。刑事施設及び保護観察所では,受刑者又は保護観察対象者が地域支援へ移行した後を見据えて,指導・援助の一貫性や継続性を維持すべく,その指導・援助に当たる必要があろう。


 

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