研修情報
第四回条件反射制御法研修会
- 誤投与等ヒューマンエラーに対する条件反射制御法
下総精神医療センター
薬 物専門病棟 看護師長 西村武彦
【はじめに】
看護師が定められた与薬手順どおりに与薬業務を実施しても、「思いこみ」や「確認不足」が原因で多くの誤投与を含む与薬エラーが発生する。これは定められた手順を反復することで、定められた手順が条件付けられ、思考が働かない状態で与薬業務を実施していることが原因と考えられる。また、与薬エラー防止対策で新しい与薬手順を設定し、看護師に与薬手順を遵守するよう繰り返し働きかけても、「手順の逸脱」による与薬エラーが発生することがある。これは元々条件付けられていた与薬行動の連鎖により、新しく設定した手順からの逸脱が発生すると考えられる。これらの与薬エラーは看護師が後天的反射連鎖で与薬業務を実施している状態であり、条件反射制御法を用い、後天的反射連鎖を抑制することで予防できると考えた。
【用語の定義】
与薬エラー:医師の処方指示から患者が薬を服用するまでの過程で発生するエラー
【方法】
平成23年6月より毎朝条件反射制御法の理論に従って与薬場面のロールプレイを実施し、与薬エラー件数を実施前後で比較する。
【ロールプレイ手順】
- 当病棟の与薬手順は6つの行動「患者に名前を名乗ってもらう」「患者の名前を声だし確認する」「日付を声だし確認する」「与薬時間を声だし確認する」「指さし確認をする」「与薬後の開口確認をする」である。6つの手順のうち1~3つ手順を抜かし意図的に手順を逸脱させたシナリオカードを作成する。
- 看護師役と患者役をその日の勤務者から選出する。
- 患者役の名前、与薬日時を設定する。
- 看護師役にシナリオカードをランダムに選択してもらい、カードに示された逸脱のある与薬手順に従って患者役に与薬する場面のロールプレイを実施する。
- 実施者以外の看護師は逸脱のある与薬場面を見る。
- 実施者以外の看護師は逸脱のあった部分を指摘する。
【結果】
平成23年度の与薬エラー(患者に影響を与えないものを含む)は52件で平成22年度の119件と比較し56.3%減少した。
【考察】
逸脱のある与薬場面を反復して見ること、または逸脱のある与薬手順を実施することで看護師の与薬行動を促進する後天的反射連鎖の作動性が弱まり、加えて逸脱された手順を指摘し、正しい与薬手順を確認することで、思考である第二信号系反射網は正しい手順を意識し、与薬エラーが減少したと考えられる。
ヒューマンエラーと言われるものの一部は、業務上、正しい手順を確認する訓練を積むことにより生じやすくなる。条件反射制御法の理論に従い、多様な逸脱を組み込んだ手順を見る、あるいは実施するという体験により、正しい手順を作動させる後天的反射連鎖が抑制され、また、逸脱の指摘により第二信号系反射網は確保され、与薬業務に限らず、様々な業務の正確性が高まる。