研修情報
第五回条件反射制御法研修会
- 条件反射制御法による他の技法および制度への影響
下総精神医療センター
薬物依存治療部長 平井愼二
1.ヒトがもつ二つの中枢と疾病あるいは犯罪的逸脱行動の理解
条件反射制御法において次の①から④の現象が高い割合で観察された。各現象に関する記載中の( )内の数値は2013年4月1日から同年10月31日までにCRCTを完了した58人の中で各反応を示した割合を示す。
①疑似や想像で、望まない神経活動や行動に関する刺激を患者自身の第二信号系の制御により作ると、反応が生じた(94.8%)。・・・第一信号系に反応が生じたと理解した。
②前記①の作業で生じた第一信号系の動作を第二信号系で中断しようとすると、苦悩などが生じた(74.1%)。・・・二つの信号系の間に摩擦が生じたと理解した。
③前記②の摩擦が生じた状態で、負の刺激を作動させると安堵感が生じた(77.6%)。・・・負の刺激で第一信号系の作動が中断し第二信号系との摩擦が消えたと理解した。
④前記①を反復すると、反応が低減した(94.8%)。・・・第一信号系の反射の作動性が低減したと理解した。
上記の結果およびパヴロフ学説、ヒトの行動の種々の現象から、ヒトの行動は第一信号系と第二信号系の二つの中枢が司ることを把握した。
ヒトがもつ第一信号系と第二信号系は無関係に、あるいは調和して、あるいは行動の方向が異なるときには摩擦の後にいずれかが優勢になって行動を実現する。第一信号系と第二信号系の摩擦が種々の疾病状態を生じさせ、また、第一信号系の作動が優勢となった行動が犯罪的逸脱行動になる。
2.行動変更を狙う技法に求められる基本的理論の変更あるいは確認
精神科の領域の多くの技法は、思考がヒトの行動を司るという漠然とした理解に基づくか、第一信号系と第二信号系の機能における関係を理解しないままに作られている。その不十分な理論が、衝動や不安に関する疾患を治療困難としている原因の一つであろう。行動や気分、突発する知覚等を調整しようとする治療者は、パヴロフ学説に基づき標的の中枢はいずれであるかを明らかにして働きかけるべきである。
3.刑事司法制度に求められる常習犯罪者の有責性の理解
刑事司法体系の基本的な理論は、正常な精神状態であれば理性的判断を行う能力を持ち、自由な意思に従って行動できるというものである。また、利益の侵害を自由な意思で行うこと、並びにその意思と行為に同時性があることでその行為を有責とするのが通常の考え方である。
しかし、現実には理性的判断をするのは第二信号系であるが、例えば1000回目の覚醒剤摂取時には第二信号系は第一信号系に抑圧され、つまり、精神病のない正常な精神状態でも常習者は理性的判断に従えず、覚醒剤を摂取するのである。この理解は、これまでの刑事司法体系にはないものであろう。刑事司法体系は、常習者による規制薬物の自己使用には疾病性が高いことを理解し、彼らに治療と刑罰を強制する新しい理論構成をして、再犯予防に実効性をもつ制度に変わらなければならない。