研修情報
精神科医療と社会復帰施設の連携
独立行政法人国立病院機構
下総精神医療センター
薬物関連精神疾患治療専門病棟
看護師 安田 浩二
規制薬物を反復摂取する者の精神的障害と法的問題に対し、精神科医療施設と社会復帰施設が連携し対応していくためには各施設が得意とする分野、不得意とする分野を明確にし、補い合いながらそれぞれの役割を果たすことが必要となる。
1.精神的障害
1)精神病性障害
社会復帰施設のスタッフは元乱用者である事が多く、また医師、看護師等は存在しない。したがって精神病性障害の治療を行うことは出来ない。精神科医療施設では医師の診断のもと精神病性障害の様々な症状に対し治療を行っていく。社会復帰施設の入寮者が精神病性障害を発症した場合、早急に精神科医療施設へ受診する事が必要である。
精神科医療施設は急性や慢性の精神病性障害問わず、社会復帰施設から患者を受け入れなければならない。そして速やかに治療を行い症状の改善と共に元の施設へ帰らせる事が求められる。社会復帰施設は精神科医療施設と連携をとる事で精神病性障害への対応に備え社会復帰プログラムに専念する事が出来るのである。
下総精神医療センターの薬物関連精神疾患治療病棟は欲求をとる機能を持つために、それを最大限に発揮することが最も薬物乱用対策に貢献することである。精神病性障害の治療は通常の精神科医療施設で行うべきである。
2)非精神病性障害
①思考に反して薬物を摂取する神経活動
この項目のタイトルこそが薬物乱用者が持つ病態の根幹であり、それに効果的に対応するのが条件反射制御法である。この技法は開始当初に強烈な渇望を生じる事があるため、渇望が強い場合には社会から隔離された閉鎖的環境で行う必要があり社会内では精神科医療施設が行うべきである。
社会復帰施設での入寮は個人の意思に任されており、入寮・退寮ともに自由である。さらに規制薬物に対する強い欲求が生じると様々な理由を付けて退寮し、そのまま社会に戻り乱用を繰り返してしまう恐れがある。つまり強い渇望をもつ状態で社会復帰施設に入寮している事は不適切であり回復活動の継続が困難である。
そのような者に対し当院では条件反射制御法を行い規制薬物に対する欲求を取り除いた状態で社会復帰施設へ入寮できるよう施設との連携をとっている。
②規則的な生活を送る能力や対人関係における障害
精神科医療施設では看護師による生活指導を行い、また作業療法に参加するなど基本的生活習慣が取り戻せるよう関わる。しかし短期間の入院だけで、人間的・社会的回復を図るには限界がある。一方、社会復帰施設は共同生活を送り、ミーティングや他者との関わりの中で徐々に人間関係が修復され、決まり事やそれぞれの役割の遂行で低下していた自己評価を回復し社会能力が向上するなど医療施設での不十分な点を補う高い効果を持つ。
2.法的問題
現在の社会復帰施設は自助組織により運営されており、対象者(入寮者)が規制薬物を使用しても通報しない方針を持っている。その態勢は尊重されるべきである。
医療施設は援助機関として、患者が規制薬物を使用した直後でも通報することなく受け入れ適切な治療を行わなければならない。同時に対象者の同意が得られれば取締側職員に対象者の存在と規制薬物使用傾向を伝え、これを将来の規制薬物使用に対する抑止力として利用する態勢を持たなければならない。
社会復帰施設には規制薬物使用を法的に規制する機能は欠けており、これは他の機関の関与を得て、補われなければならない部分である。その補完を実現するのが、同意した入寮者に対して医療施設で簡易薬物検出検査を実施し、取締職員の協力を得るものである。この取締職員が関与する可能性のある簡易薬物検出検査を用いた対応を社会復帰施設の入寮者に対して行うことは、社会復帰施設が法に従い、刑事司法体系を活用しようとすることであり社会と調和するものである。
おわりに
ここまで示したように、社会復帰施設は医療による治療を必要とし、医療は人間的・社会的回復を施設に求める。また法的に規制される機能が欠けていた社会復帰施設は医療の関与を得て、法による抑止力を処遇に設定でき、社会に認められる存在となる。