下総精神医療センター

研修情報

薬物乱用者に対する生活保護のあり方

独立行政法人国立病院機構
下総精神医療センター
薬物関連精神疾患治療専門病棟
副看護師長 瀧口宗宏

 薬物乱用者の中には、生活保護受給しながら薬物を使い続ける者が少なからず存在する。このようなケースは、医療機関での治療のみでは自立することは難しい。社会復帰のためには、治療後にダルク等の施設での社会復帰訓練が必要である。しかし、病院からの施設への入寮指導には強制力がなく、患者が薬物摂取に条件づけられた本来の意思ではない思考に基づき、退院後のダルク等への入寮を拒否し、元の環境に戻ることを希望した場合、再使用のリスクが高いことを把握しながらも、そのまま退院させざる得ない状況があった。
我々はこの状況に対し、福祉事務所へのアンケート調査や、福祉事務所職員との実務検討会を行ってきた。これらの研究や取り組みを通して、福祉事務所ごとで薬物乱用者に対する生活保護の適応、解釈、運用に差異がある、福祉事務所職員の業務は多忙であり薬物乱用者に十分に関わることができない、薬物乱用者の対応技術の蓄積が少ない等の問題点が明らかになった。
現在、薬物関連精神疾患専門治療病棟では、生活保護を受給している薬物乱用者が入院すると、看護師は医師とともに、再乱用の可能性、精神病性障害の程度、就労の見通し、をアセスメントし、社会復帰施設への入寮を推奨する程度を、患者と福祉事務所職員に伝えている。同時に「生活保護を受ける薬物乱用者が、就労の継続が困難で、社会復帰訓練が必要と判断される場合、福祉事務所から社会復帰施設への入寮を指導する。入寮を拒む場合は、生活保護の提供を停廃止する手続きをすすめることを伝えたうえで、再度、入寮を強力に指導するべきである。」という当院の方針も伝えている。
まだ、すべての福祉事務所がこの方針を受け入れ指導を行うまでには至っていないが、福祉事務所職員の指導が決め手となりダルク入寮を決意するケースは増えてきている。地域特性などを考慮すると、実務上、福祉事務所にはある程度の柔軟な姿勢が必要と思われるが、今後は対応が統一されることが望ましい。薬物乱用者に対する自立支援プログラムの開発、導入に期待したい。






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