研修情報
第三回薬物乱用対策研修会
下総精神医療センター
看護師 平川 武幸
はじめに
規制薬物を反復摂取する者には精神的障害の問題(精神病性障害と非精神病性障害)、法的問題、経済的問題、家族の問題などが挙げられる。
これらの問題に、精神科医療施設と社会復帰施設が連携し対応していくために各機関が得意とする分野、不得意とする分野を明確にし、補い合いながらそれぞれの役割を果たすことが必要となる。
Ⅰ.精神科医療施設の特徴
精神科医療施設には、医師・看護師その他専門のスタッフが常駐し医療が提供できる態勢にある。
精神病性障害の治療に対しては、精神保健福祉法に基づいて非自発的
入院ができ、薬物療法などにより精神病性障害などへの対応も可能となる。また守秘義務を有するので規制薬物を使用した直後でも通報しない態勢を持つことにより、薬物反復摂取者に対して接近性が高く保てる。薬物に対する欲求や精神病性障害は、依存症治療プログラムの整った精神科医療施設の入院で短期間に治まることが多い。人間性や社会性の回復から見ると、医療施設の短期間の入院だけでは限界がある。
Ⅱ.社会復帰施設の特徴
医師・看護師等は存在しない。したがって精神病性障害の治療を行うことはできない。
社会復帰施設の入寮は個人の意思に任されており、入寮・退寮ともに
自由である。さらに規制薬物の強い欲求が生じると様々な理由を付けて退寮し、そのまま社会に戻り乱用を繰り返してしまう恐れがある。規制薬物を使用した直後の者に対しては通報しない方針を持っている。
Ⅲ.精神科医療施設と社会復帰施設の連携
1.精神的障害の問題
1)精神病性障害の対応
①急性精神病性障害
社会復帰施設入寮中はスリップや内服の自己中断、または何らかの理由で急性的に精神病性障害の出現がありえる。そこで近隣の精神科医療施設に受診をすることになるが、精神病性障害の急性発症が、規制薬物使用を原因とする場合は通報する施設もある。
医療施設は援助機関として、社会復帰施設の活動を妨げることなく、規制薬物を使用した直後でも通報することなく受け入れ、適切な治療を行わなければならない。
②慢性精神病性障害
社会復帰施設入寮者には、慢性精神病性障害を抱えたまま入寮している者もいる。そのような者は症状の改善と憎悪を繰り返しながら社会復帰施設で生活しているため、継続内服と定期的な通院を要し、症状の憎悪期には医療施設の受診と入院が必要である。
当院では慢性精神病性障害の患者が社会復帰施設でも十分対応できる態勢を整えている。
2)非精神病性障害の対応
①思考に反して薬物を摂取する病態
薬物の欲求を抑制するのに効果的な条件反射抑制療法は、開始当初に強烈な渇望を生じる事があるため、社会から隔離された閉鎖的環境で行う必要がある。
当院の薬物中毒専門治療病棟は閉鎖病棟であり、外界からの刺激も絶たれ、薬物の欲求が生じた場合でも自由な環境にもどることが抑制できる。
条件反射抑制療法は退院後も継続することが望ましく、生活訓練等が必要であれば社会復帰施設入寮後も維持していくことが必要である。
また規制薬物を使用した患者でも、接近性を持つ為に通報する姿勢は持たず治療に関わるが、法的な問題に対しては、尿検査の実施と麻薬取締官との面接を実施している。
②規則的な生活を送る能力における障害
精神科医療施設では看護師による生活指導を行い、また作業療法に参加するなど基本的生活習慣が取り戻せるよう関わることが行われている。 しかし短期間の入院で、人間的・社会的回復を図るには限界があることは否定できない。
2.法的問題
日本の社会復帰施設の多くは、当事者が自助的に展開する活動であり、社会復帰施設は対象者(入寮者)が規制薬物を使用しても通報する方針を持っていない。通報しない方針は他の機関の関与を得て、補われなければならない部分である。これを実現するのが、尿検査を同意した入寮者に医療施設や保健所行政機関で簡易尿検査を実施するものである。
この社会復帰施設に尿検査を使った法的抑止力を設定することは、入寮者の再乱用防止に効果をあげ、規制薬物の使用を否定する証拠となる。また規制薬物使用時の指導にもかかわらず繰り返しの使用が発覚した場合逮捕もありえることから、施設を法に従う薬物需要削減対策の一員として、社会的にも認められる集団にする。また、尿検査を実施するのは医療施設や保健機関の専門職であり、法的抑止力が持ち込まれるが、社会復帰施設のスタッフが通報しない態勢に変更はなく弱点のみを補うことが可能になる。
3.家族の問題
家族や周囲の者は乱用者の薬物使用を止めさせようと、悩み苦しみ様々な努力をしてしまう。そして乱用者は薬物を使い続ける為に家族や周囲の者を操作しようとする。これらは互いに共依存の関係に陥り、薬物継続使用の環境を整えてしまうと共に回復への動機づけを阻害してしまうことになる。
本人の起こした問題行為は、本人が責任をもって対処するよう指導することにある。
その家族教育に適したものに家族会が存在しており、これら家族会につながるようサポートしていくことも必要である。