下総精神医療センター

研修情報

薬物乱用者に対する更生保護の関わり

大阪保護観察所堺支部長 生駒 貴弘

 保護観察の対象となる薬物事犯者は,シンナー事犯者と覚せい剤事犯者が中心である。このうち,覚せい剤事犯者は,成人の対象者(刑事施設からの仮釈放者及び保護観察付執行猶予者)が主な対象である。


 覚せい剤事犯者に対する保護観察の対応は,ここ数年で相当の進展をみせている。平成16年からは簡易薬物検出検査を活用した処遇を開始し,平成20年からは,簡易薬物検出検査と断薬教育を一体のものとして実施する「覚せい剤事犯者処遇プログラム」を運用している。これらの処遇は,覚せい剤事犯者の再犯防止に効果を上げるとともに,保護観察の処遇活動に従事する保護観察官が,覚せい剤事犯者との協同的な問題解決のための関わりを持つようになったことで,薬物事犯者の実情や薬物依存の問題の深刻さを正しく理解することにつながっている。


 保護観察は社会内処遇であり,社会内で薬物依存の問題に対応する援助的機関と連携して対応していくことが必要である。保護観察所から見た関係機関としては,ダルク・NAなどの自助的組織,精神科医療施設,及び保健所・精神保健福祉センター・福祉事務所などの公的機関がある。特に保護観察中の薬物事犯者が関わりを持つことが多いダルク,精神科医療施設は特に重要な関係機関である。刑事司法の枠組みから入った薬物事犯者に対する処遇は,刑事施設→保護観察→社会内の援助機関と連携がスムーズにつながることが理想であるが,現状では,この連携が十分でなく,また,連携を可能にするシステムが整備されていないため,保護観察所ごと(更には保護観察官ごと)に対応の差が生じている面もある。


 薬物事犯者の処遇に関し,上記の連携強化を進めるために必要なことは,①刑事施設職員及び更生保護関係者(保護観察官)が薬物乱用・依存の問題を正しく理解すること,②関係機関が連携して薬物事犯者に対応するシステムを作ること,の2点であると考えている。このうち,①については,処遇プログラムの導入により,相当進展していると思われる。


 ②に関連する事項として,現在,法務省では,刑の一部執行猶予制度の導入を検討しており(法務省ホームページ,法制審議会「被収容人員適正化方策に関する部会」参照),検討中の制度案では,規制薬物の自己使用及び所持に係る犯罪については他の罪種と区別し,累犯者であっても一部執行猶予の適用を可能とすることとされている。この制度が導入されれば,保護観察所で取り扱う薬物事犯者の数は大幅に増えるとともに,関わる期間も長期に亘るため,刑事司法の枠組みから入った薬物事犯者に対する処遇の大幅な充実が期待できる。この制度の実現が望まれるとともに,これを契機として,刑事施設→保護観察所→社会内の援助機関の連携がシステムとして整備されることが期待される。 





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