研修情報
第三回薬物乱用対策研修会
- 回復と人間的成長
日本ダルク代表、NPO法人アパリ理事長
近藤恒夫
1.依存症のバリエーション
私は25年以上薬物依存症からの回復に注力してきたが、依存の対象は薬物だけではない。タバコ、アルコール、コーヒーといった「物質」に対する依存のほか、摂食障害や自傷行為、ショッピング、ギャンブル、セックス、仕事などの「行為」も依存の対象となり得る。いずれも意思に反して執着してしまい、自分でもコントロールがきかなくなり、やめられなくなる。
2.共依存の構造
このほかに、人間関係への依存というべき「共依存」が挙げられる。恋愛、性関係、他者への依存の形をとるこの依存は、相手に頼ることで相手をコントロールしようとする人と、相手を頼らせることで相手をコントロールしようとする人の間にできる関係である。
前者は必要とされる人で、後者は「必要とされる必要」がある人である。例えば、夫婦関係でいえば、夫がアルコール依存症で、その妻が共依存症である場合やドメスティック・バイオレンスもこの依存症が背後にあることが指摘されている。
彼らは、「お互い嫌いなのに離れられない」、「軽蔑し合い傷つけあっているのに一緒にいないと寂しい、不安である」といった両価的で不自然な支配とコントロールの人間関係を築き上げる。
3.依存症の背景としての共依存
現在、こうした共依存がさまざまな依存症の温床になると認識されている。たとえば、薬物依存症の夫を救うという使命感を持った妻、というカップルは互いに相手を必要としているので、夫は依存から抜け出すことができない。
依存症は依存対象よりも依存してしまうパーソナリティの問題として捉えることができる。パーソナリティはその本人だけの問題ではなく、その依存的パーソナリティ形成に関わった両親や配偶者との関係性が問題となる。そのために、依存症者は家族から離れて回復するケースが多い。共依存状態の中では回復は困難なのである。この意味では、ダルクに入寮して回復を目指すことには利点がある。
4.「依存」と「自立」
依存症者は、対象にのめり込み依存することで、現実から逃げることができる。そして偽りの自立を得ようとしている。依存することによって自分の中でバランスをとって、自分を保とうとしているのである。自分の中に抱えている生きづらさをなだめて、日常生活に適応するために依存対象の助けを借りている。なので、言い方を変えれば、何かに依存することで自分の生きづらさを表現しているということになる。
意志の病でもある依存症は完治するはずもなく、依存対象は変化していく。そのため、私たちダルクの回復途上の仲間たちは「価値観→プログラム(12ステップ)→選択」となるように毎日トレーニングしている。依存症者は自分の意志を使って選択すると、知らずに病気の方向に向かっていってしまう。プログラムによって価値観が変わり、その価値観によって選択することができれば回復に向かうのである。
5.12ステップと回復のプロセス
NAの12のステップは、勉強するものではなく実践するものであるため、各ステップで使われている動詞は「認めた」「信じるようになった」「ゆだねる決心をした」など、すべて過去形になっている。これはいわば実践による悟りのプログラムで、後になって気づかされるようになっている。各ステップはそれぞれ抽象的な表現になっていて、わかりにくいところがある。事実、人によって理解の仕方、受け止め方が多少異なっている。
各ステップには中心的な心理的課題が設定されている。講義要旨ではそれぞれについての詳細は割愛するが、薬物依存者は12ステップに沿ったある一定の心理的プロセスを経て回復へ向かうと考えられる。
しかしながら、依存症は治らない病気である。これらの心理的課題をクリアしながら依存症と共存して、生きていくことになるのである。