研修情報
第三回薬物乱用対策研修会
- 保健行政による薬物乱用者へのかかわり
行政機関による薬物尿検査の実際 ~ダルク・県薬務課との連携~
栃木県精神保健福祉センター
所長 増茂 尚志
1.栃木県薬物依存症対策推進事業
平成21年4月、国の「地域依存症対策推進モデル事業」として承認。
「栃木県薬物依存症対策推進委員会」を設置し、以下の事業を進める。
1)薬物再乱用防止教育事業 3)薬物相談窓口
2)家族会事業 4)経過観察指導事業
2.「薬物再乱用防止教育事業」の意義
通常、初犯で有罪判決を受け執行猶予となった者に保護観察はつかず、この執行猶予期間中に再犯率が高いことは知られている。依存傾向が低い初犯の段階から再乱用防止教育プログラムに導入することは、再犯率減少に役立つと期待され意義がある。
3.栃木県薬物再乱用防止教育事業の概要
(1)委託を受けた栃木ダルクの再発予防プログラムを年間20回実施。
(2)受講者家族に対する、家族会への参加を勧奨し精神的支援を行う。
(3)任意で同意が得られた者に対する違法薬物の定期的な簡易尿検査の実施。
精神保健福祉センターは、家族への心理教育と定期的な簡易尿検査を実施している。
4.薬物再乱用防止教育事業における簡易薬物尿検査実施の目的
・薬物の再使用を心理的に抑制するための強い動機づけになる。
・本人と家族の相互の信頼を回復、向上させる。
・違法薬物の供給を遠ざけることが容易になる。
5.精神保健福祉センターによる簡易薬物尿検査実施の意義
本プログラムにおける簡易尿検査の目的は、再乱用者を速やかに実刑に結びつけるためではなく、再乱用防止教育プログラムへの参加を維持し断薬の努力をできる限り体験させることである。そのために、簡易尿検査を、取締機関の薬務課ではなく、相談業務を主とする援助機関である精神保健福祉センターで実施することは、家族への心理教育実施と合わせ、家族の信頼関係を回復させるためにも効果が高い。これにより、本プログラムの効果的な運用が可能となる。
5.定期簡易尿検査の実施と結果報告
【検査実施】精神保健福祉センターにおける簡易尿検査は、予約された定期尿検査のみを行い、定期受検以外の尿検査は実施しない。検査実施は月2回。第1、2金曜日。
【検査結果の報告】
受検者の検査結果は、一月毎に取りまとめ、翌月10日までに薬務課に報告する。
6.薬物尿検査陽性者への対応
(1)当センター精神科外来で精神科医の診察を受ける。
精神症状を確認し治療の必要あれば、隣接の精神科病院受診を指示。
(2)本人と家族に、疑陽性の可能性を含め、薬務課で相談と精密検査を勧奨する。
(3)結果は、翌月10日までに薬務課へ報告される。
(4)精神科医の診察、薬務課との相談勧奨等、必要な指示を拒否する場合や、その他、プログラム参加に不適切な言動が認められた場合は、ダルク及び薬務課にその旨を報告する。
7.平成21年度の尿検査結果(平成21年8月~平成22年度3月)
登録受検対象者:3人(男2・女1)
受検実人数:2人(男1・女1)
述べ人数:8人
結果:すべて陰性
8.平成22年度の尿検査結果(平成22年4月~平成23年3月)
登録受検対象者:15名(男8・女7)
受検実人数:14人(男6・女8)
延べ人数:38人
結果:男子1名に1回、疑陽性(平成22年11月)。その他、すべて陰性。