下総精神医療センター

研修情報

第三回薬物乱用対策研修会

  • 薬物乱用者に対する生活保護費の提供のあり方

下総精神医療センター
副看護師長 瀧口宗宏

 乱用期間が長期にわたる薬物乱用者(以下、長期薬物乱用者)は10代より乱用を開始していることが多く、思春期に乗り越えるべきストレスを薬物の酔いによって回避し、発達課題を達成していない。そのため、高次の欲求(就業、愛情、自己実現等)の発達が未熟であり、ストレスに対し脆弱で、就業しても長続きせず薬物を再使用しやすい。その結果、長期薬物乱用者は経済的に破綻し、身内との関係も疎遠になっており、生活保護を受けていることが多い(当院入院患者も約40%が生活保護)。この状態になると、単一機関での回復は難しく、複数機関が連携して関わる必要がある。

 一方で、薬物乱用者は他の精神科疾患患者に比べ、精神病性障害そのものは軽度、もしくは一過性であることが多いので、適切なリハビリテーションを受ければ生活保護より自立する可能性は高い。

 長期薬物乱用者の中には生活保護受給しながら薬物を使い続ける者も少なからず存在し、特に複数回の入退院を繰り返す者はこの傾向が明白にある。このようなケースは、医療機関での依存症治療のみでは自立することは難しい。治療後にダルク等の社会復帰施設でのリハビリテーションが必要であることが多いが、医療からの入寮指導には強制力がなく、患者が退院後、先に述べた本来の意思ではない行動に基づき社会復帰施設等への入寮を拒否し、元の環境に戻ることを希望した場合、再使用のリスクが高いことを把握しながらも、そのまま退院させざる得ない現状がある。

 当院で、医療機関の推奨する対応と福祉事務所の考える対応の差異に注目し、薬物乱用者に対する福祉事務所と関係機関の連携および薬物乱用者の回復に関しての研究を行っている。福祉事務所を対象にアンケートを行い、「退院後の治療方針を患者が受け入れない場合、①保護費の支給を停止あるいは廃止する②保護費の支給を継続する。しかし、今後、覚せい剤の摂取があり、かつ、処遇方針に従わなければ、保護費の支給を中止する③保護費の支給は継続する」の3つの中から選んでもらった。

 福祉事務所に文書を郵送したもの31件。返信のあったもの19件。このうち、提案通りに保護費の支給を停止あるいは廃止するとしたものが7件。明言を避けたものが4件。保護費の支給を継続するとしたものが8件あった。

 過去に入退院を繰り返す患者に対し、福祉事務所と連携して「被保護者の義務」-④指導または指示に従う義務-に従い、「ダルクに入寮しないなら、生活保護費の提供を停止する」と指導したところダルク入寮を決意したケースが数例あった。これは、医療と福祉の連携がうまくとれたケースであるが、研究結果も示しているように薬物乱用者に対する生活保護の提供のあり方は福祉事務所により対応にばらつきがあるのが現状である。

 薬物依存をもつ者に対する生活保護のあり方についてこれまでに基本的な方針が示されていないことが原因と思われる。

 当院は、薬物乱用者を生活保護の対象に留めるか否かは、規制薬物を乱用したか否かで決定すべきではなく、対象者が適切なはたらきかけにかかわっているか否かで判断すべきである、と考えている。すなわち、生活保護を受けており、社会復帰施設への入寮が必要な薬物乱用者が入寮しない場合には、生活保護を提供しないことを伝える。同時に生活保護を受けて入寮し、社会復帰訓練を受けるように勧奨するべきである。





ページのトップへ戻る