下総精神医療センター

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第四回薬物乱用対策研修会 > 研修会プログラム > 第16講義

医療観察法指定通院医療機関の関わる∞連携

デイケア・クリニックほっとステーション
院 長   長谷川 直実

  医療観察法指定通院医療機関は、地域社会で対象者が同様の加害行為を起こさないために厚生労働省の要綱にあるように「他の医療・保健・福祉の社会資源との連携」をとり、「対象者の病状に応じた専門的な医療を提供」しなければならない。病棟のように閉鎖されていない外来診療においては、再犯のブレーキになりそうなものは、ケア会議で話し合って積極的に治療の枠組みに取り入れるべきである。
  違法薬物を乱用して他害行為に及んだ医療観察法の対象者には、医療機関が関わる前に、裁判所及び保護観察所(社会復帰調整官)が処遇の枠組に既に組み込まれている。社会復帰調整官は、全体のコーディネーター役を務め、対象者の話をよく聞いて生活環境調査を進め、指定入院医療機関と指定通院医療機関の橋渡し、対象者と家族の橋渡し、つまり対象者と地域社会の橋渡し役を務めている。このような職務柄、社会復帰調整官は、本来ならば保護観察所の職員として取締側にあるところを、現実としては、極めて援助側に近い立ち位置にいることが多い。
  しかし、対象者が違法薬物を乱用したことを把握すれば、保護観察所の職員である社会復帰調整官は、司法手続きが進むように対応せざるを得ない。
  我々の医療機関では、担当した多剤乱用による幻覚妄想状態で事件を起こした医療観察法の対象者の事例に対し、∞連携に従い、再犯と病状再燃を防ぐために医療機関、社会復帰調整官、麻薬取締官がそれぞれの機能が発揮されるように各機関および対象者の合意において次のように取り決め、実施している。当院での月に2~3回の診察時に薬物検出検査を行う。薬物検出キットを用いた診察において結果が陽性でもその時点で直ちに通報しない。尿検査の結果は月初めの社会復帰調整官への報告書に記載し、また、ケア会議での質問、文書での照会があった場合は回答する。従って、問い合わせがなかった場合は通常は検査から報告書提出まで2週間以上あくため、陽性でも検挙される可能性が低い。しかし、診療所での検査で陽性反応が出た後、体内から薬物が排出される前に問い合わせがあり、答えなければならない事態も起こりうる。
  上記の設定では医療観察法指定通院医療機関は、違法薬物を乱用した対象者が受診し難くなることを抑え、対象者が社会に放置されることを防ぎ、早い医療的対応並びに後のより強い法による抑制力の設定を可能にする。
  また、社会復帰調整官は薬物乱用の問題を抱えた者に対して対象行為の再発に直接影響を及ぼす精神病症状の再燃を防ぐことにおいては援助側の役割を担い、薬物乱用に対しては麻薬取締官と共に取締側の役割を担う。この態勢を対象者に対して明らかにすることにより、社会復帰調整官は、それまで築き上げてきた対象者との良好な関係を壊すことなく、対象行為の誘因となる違法薬物乱用に対して強力なブレーキとなり、再発・再犯防止に効果を上げることができる。 





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