研修情報
第四回薬物乱用対策研修会 > 研修会プログラム > 第17講義
法務省法務総合研究所
室長研究官 岡田 和也
1.保護観察の概要
保護観察は,保護観察対象者の再犯・再非行を防ぎ,その改善更生を図ることを目的として,その対象者に通常の社会生活を営ませながら,国家公務員である保護観察官と民間篤志家である保護司が,面接等の方法により接触を保ち行状を把握することや遵守事項を守るよう必要な措置を執るなどの指導監督を行い,また,自立した生活ができるように住居確保や就職援助などの補導援護を行うことにより実施される。
2.保護観察における薬物乱用者
平成22年中に新たに保護観察に付された者を主たる罪名別に見ると,仮釈放者では,窃盗5,034人(34.8%),覚せい剤取締法違反3,134人(21.7%,女子は35.6%で第1位),詐欺1,228人(8.5%)の順で,保護観察付執行猶予者では,窃盗1,373人(37.3%),覚せい剤取締法違反472人(12.8%),傷害313人(8.5%)の順となっている。
このように,覚せい剤取締法違反により保護観察に付されている者は相当数にのぼり,保護観察処遇においても高いウェイトを占めている。なお,覚せい剤取締法違反(覚せい剤に係る麻薬特例法違反を含む。)について,前に同法違反で検挙され,再度,同法違反で検挙された者は60.2%と,非常に高い比率を示しており,覚せい剤取締法違反で一度検挙された者は,その後再び同種再犯に至る可能性が非常に高いことを示している。
3.保護観察における薬物乱用対策の概要
このような状況の下,全国の保護観察所では,一定の条件に合致する仮釈放者及び保護観察付執行猶予者に対して,専門的処遇プログラムの一つである「覚せい剤事犯者処遇プログラム」(ワークブックによる教育課程及び簡易薬物検出検査から構成される。)の受講を特別遵守事項に設定して,保護観察官が5回にわたり実施している。また,特別遵守事項で義務付けされなかった者に対しては,本人の自発的意思の下での簡易薬物検出検査を実施している。平成22年中に全国の保護観察所において,覚せい剤事犯者処遇プログラムによる処遇の開始人員は,仮釈放者968人・保護観察付執行猶予者419人で,自発的意思の下での簡易薬物検出検査の実施件数は,7,282件であった。
これに加えて,薬物事犯で受刑中の者の引受人や家族を対象とした「引受人会・家族会」の実施や,適当な住居がない薬物事犯者をダルク等民間の薬物依存症リハビリテーション施設等へ委託保護することのほか,平成24年度からは,精神保健福祉センターや医療機関等との連携モデル庁指定の拡大,薬物依存症リハビリテーション施設等への薬物依存回復訓練の委託が新規実施されている。
4.今後の課題
現在,刑の一部の執行猶予制度の導入が審議されており,これにより,薬物事犯保護観察対象者の増加が予想される。これを見据えて,従前の「覚せい剤事犯者処遇プログラム」を発展させた「新薬物処遇プログラム」が本年秋から施行予定である。
全国の刑事施設で実施されている特別改善指導における処遇プログラム,保護観察所で実施されている専門的処遇プログラムは,欧米の研究で,犯罪者の再犯防止に効果があるとされている認知行動療法に基づいている。しかし,刑事施設,保護観察所いずれにおいても,その効果検証は分析途上であり,公表の段階には至っていない。
今後,その効果検証の分析結果に基づいて,既存の処遇プログラムを改訂等することが必要と考えられる。