下総精神医療センター

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第五回薬物乱用対策研修会 > 研修会プログラム > 第11講義

施設内処遇における対職員暴力予防の体制

 

                               下総精神医療センター
                               薬物関連精神疾患治療専門病棟
                               看護師長  野沢ノリ子

  

はじめに
 当院の薬物中毒専門治療病棟(以下、当病棟)では非自発的な入院形態での患者が41%を占めている。非自発的入院の患者は治療に対する意欲が低く、過去(2000年頃まで)には看護師への威嚇・暴力等を含む逸脱行為が繰り返されていた。看護師は患者の威嚇・暴力を恐れ、患者が病棟の秩序を乱すような逸脱行為をしても指導することができず、病棟は治療的な環境が保たれなかった。
当時の処遇決定の体制が原因となる看護師の低い権威
 当時、患者の処遇方針(行動制限、電話面会制限)の決定については医師が全ての権限を持ち、看護師がそれに忠実に従うものであり、医師がいない夜間や休日などは医師の指示がないと看護師は自分の判断でその場に応じた対応をすることができず、患者の不満を高める体制であった。看護師が患者の威嚇・暴力の対象になりやすかった原因は、患者の処遇方針に関与できず責任を持たない体制であったために看護師の権威を低めていたことと考えられた。
処遇決定の体制の変更に基づく看護師の権威の向上
 患者の威嚇・暴力を予防する為には看護師の権威を高めることが必要であると考えた。従って、看護師が受け持つ対応可能な範囲を拡大し、積極的に患者の処遇方針に関与することとした。同時に、看護師の判断による対応に関しては看護師が自ら責任を持つようにした。このような改変を起こした時期と同じくして、社会復帰施設との協力関係が深まり、治療から社会復帰へのつながりがうまくいくようになった。これに看護師が深く関わることにより、看護師は患者にとって頼りにするべき存在となり、治療的な関係が築けるようになった。患者との治療的な関係が築けたことにより、以前は威嚇・暴力により不可能と考えられていた逸脱行為に対する指導や、治療の動機付けをする関わりができるようになった。
看護師による治療の動機付けをする関わり
 非自発的入院患者は威嚇・暴力に限らず、様々な逸脱行為を繰り返す。逸脱行為はその患者の治療が進まないだけでなく、時に治療意欲の高い患者の治療の妨げにもなり、病棟全体の治療効果を悪化させる原因ともなり得る。中には「治療は医者がするから、看護師にはいろいろ言われたくない。」と言うような患者もいるが、そのような患者にも積極的に治療の動機付けをする関わりを行い、患者を治療に乗せ、病棟を安全にすることに効果を上げている。
 治療の動機付けをする関わりは患者の否認を崩していく作業であり、患者と看護師の関係が良好に保たれていないと難しい。看護師は患者の回復支援を関わりの基盤として、患者との信頼関係を築いていくいことで、患者自身が現実に直面化できるように面接を繰り返していく。
治療環境の維持
 治療環境を維持していくためには、逸脱行為をどのように防止するか、逸脱行為があったときにどのような対応をするかが重要である。当病棟では病棟ルールを細かく設定しているが、むしろ患者への説明はルールという言葉は使わず、「みんなが気持ちよく過ごせるようにお願いしていることであり、私もあなたにそうして欲しい」と伝え、逸脱行為の防止に努めている。また、逸脱行為があった場合はその都度個別的な指導や、必要であれば患者全体を集めての指導を行うこと、暴力行為があった場合などは警察への通報をすることで絶対許さないといった姿勢を示すことが必要である。また、看護師に対しての威嚇や暴力があった場合は、その情報を全ての看護師で共有し、同時に、威嚇等の対象となった看護師が、他の看護師の協力を得て加害者である患者と対峙して、指導、あるいは謝罪や補償の要求をすることが必須である。
おわりに
薬物乱用は再犯率が非常に高く、早期に医療が介入する必要であり、その為に非自発的入院で医療が関わることが求められ、入院中には薬物への渇望と彼らの特性から激しい攻撃性や対人操作性が職員に向く傾向がある。非自発的入院の患者を受け入れるためには24時間患者と向かい合う看護師には、高い患者対応技術と意欲が必要である。当病棟の新しい体制は患者の威嚇・暴力等を含む逸脱行為を予防する効果、並びに看護師の対応技術と意欲を高める効果があった。





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