研修情報
第五回薬物乱用対策研修会 > 研修会プログラム > 第12講義
栃木県精神保健福祉センター
所長 増茂 尚志
1.「栃木県薬物再乱用防止教育事業」開始の経緯
初犯の薬物事犯は、有罪であっても、ほとんどが執行猶予となり、通常、保護観察はつかない。そして、執行猶予期間の再犯率が高いことが知られているにもかかわらず具体的な対策はなかった。平成21年度、栃木県の薬務課は、初犯の執行猶予者に再乱用防止教育を受けさせることを目的として「薬物再乱用防止教育事業」を開始した。この事業は、これまで薬物再乱用防止教育を受ける機会がなかった初犯の執行猶予者を、依存傾向が低い時期から再乱用防止教育プログラムに導入することに意義があり、再犯率の減少に役立つと期待される。
2.栃木県薬物依存症対策推進事業
「栃木県再乱用防止教育事業」は、平成21年4月、国の「地域依存症対策推進モデル事業」として承認され、4つの事業を展開してきた。
この事業は、県の薬務課が県警の薬物事犯担当者と連携して対象者を選定し、コーディネーターとして精神保健福祉センター、栃木ダルクと役割分担しながら、既存の事業に新たな事業を上乗せする形で事業を展開した。
1)薬物再乱用防止教育事業(再乱用防止プログラム参加と簡易尿検査)
2)家族会事業(薬物依存症家族教室への参加)
3)薬物相談窓口(薬務課と精神保健福祉センター)
4)経過観察指導事業(薬務課によるプログラム修了者のフォローアップ)
3.栃木県薬物再乱用防止教育事業の概要
(1)委託を受けた栃木ダルクが実施する再乱用防止教育プログラムに参加し再発予防プログラム
(平成21年開始時はCon-gameを使用。その後、SMARPPを改編したT-DARPPを使用)の10課程を学習する。
(2)受講者家族に対し、家族会、家族教室への参加を勧奨し精神的支援を行う。
(3)任意で同意が得られた者に対する定期的な簡易薬物尿検査を実施する。
精神保健福祉センターは、家族への心理教育と定期的な簡易尿検査を実施している。
4.薬物再乱用防止教育事業における簡易薬物尿検査実施の目的
・薬物の再使用を心理的に抑制するための1ヵ月毎の強い動機づけになる。
・本人と家族の相互の信頼を回復、向上させる。
・違法薬物の供給を遠ざけることが容易になる。
5.精神保健福祉センターによる簡易薬物尿検査実施の意義
本プログラムにおける簡易尿検査の目的は、再乱用者を速やかに逮捕するためではない。再乱用防止プログラムへの参加を維持し断薬の体験をできる限り継続させることにある。そのため、簡易尿検査を、取締機関の薬務課ではなく、相談業務を主とする援助機関である精神保健福祉センターで実施することに大きな意味がある。家族への心理教育実施と合わせて、尿検査の結果を家族に示すことで家族の信頼を回復させる効果が期待できる。
6.定期簡易尿検査の実施と結果報告
【検査実施】精神保健福祉センターにおける簡易尿検査は、予約された定期尿検査のみを行い、定期受検以外の尿検査は実施しない。検査実施は月2回。第1、2金曜日。
【検査結果の報告】
受検者の検査結果は、一月毎に取りまとめ、翌月10日までに薬務課に報告する。
7.薬物尿検査陽性者への対応
(1)当センター精神科外来で精神科医の診察を受ける。
精神症状を確認し治療の必要あれば、隣接の精神科病院受診を指示。
(2)本人と家族に、擬陽性反応の可能性を含めて説明し、薬務課での精密検査受験を勧奨する。
(3)結果は、翌月10日までに薬務課へ報告される。
(4)精神科医の診察、薬務課との相談勧奨等、必要な指示を拒否する場合や、その他、プログラム参加に不適切な言動が認められた場合は、ダルク及び薬務課にその旨を報告する。
8.平成24年度以降の状況
平成23年3月から、県北健康福祉センターで簡易薬物尿検査の定期的な実施を開始した。以後、栃木県内の他の健康福祉センターでも、順次、簡易尿検査の実施を開始し、現在、県北、県西、県東、安足の4カ所の広域健康福祉センターで実施を継続しており、それぞれの施設で、毎月1~3名の検査を実施中である。
平成24度末までに、この事業への参加者数64名。うち簡易尿検査受検者数30名。
家族教室参加家族数17家族であった。