下総精神医療センター

研修情報

第五回薬物乱用対策研修会 > 研修会プログラム > 第13講義

薬物事犯者に対する検察の業務

東京地方検察庁立川支部
検事  森  悦 子

1 薬物事犯を取り巻く現状と問題,本講義の概要及び目的
我が国の法律は,規制薬物の輸入や譲渡,所持等のほか,多くの薬物につき末端の使用者についても処罰の対象としている。しかしながら,薬物の使用事犯は再犯率が極めて高く,取締り機関による使用事犯の検挙,処罰が薬物事犯の撲滅に十分な効果を挙げているとは言い難い状況にある。
薬物事犯の撲滅には,需要の根絶もさることながら,供給源を断つこと,すなわち規制薬物の密売組織,密輸入組織の撲滅が最も効果的であるが,巧妙な手口で国際的に暗躍する密売組織に限られた捜査人員と捜査手法で立ち向かうには多くの困難を伴い,密輸入事犯の裁判員裁判では相当数の無罪判決も言い渡されている。
そこで本講義では,後記2ないし4のとおり,「取締り」という観点から見た薬物事犯の現状について概観した後,薬物事犯に対する我が国の刑事司法手続とそこにおける検察官の役割及び今後の課題等につき見ていく予定である。
本講義は,保護・援助の機関と捜査機関との連携につき必ずしも具体的な方策等を提言するものではないが,両機関の連携を考えて行くための前提として,捜査機関から見た薬物事犯の取締り及び刑事裁判の現状と今後の課題等を明らかにするものである。
2 薬物事犯の現状について
薬物事犯のうち最も検挙人員が多く,深刻な覚せい剤取締法違反を中心に,平成23年度の検挙人員,そのうち暴力団構成員の占める割合,再犯率,密輸入事犯の検挙事件数,規制薬物の仕出地(国)の状況,規制薬物の押収量,規制薬物乱用者による二次犯罪の検挙人員,薬物事犯の裁判の動向(刑の執行猶予率,保護観察付き執行猶予率などを含む。)などを概観する。
3 薬物事犯の刑事裁判手続について
平成16年に創設された即決裁判手続,平成21年から始まった裁判員裁判等にも触れながら概観する。その中で,規制薬物の密輸入事犯における有罪立証の難しさ及び裁判員裁判で言い渡された無罪判決についても触れる予定である。
また,昨年11月の衆議院の解散に伴い廃案となった,刑の一部執行猶予法案及び諸外国におけるドラッグコート制度についても概観する。
4 薬物事犯の捜査について
主に供給源の撲滅という観点から,規制薬物の密輸入事犯の捜査を中心に,現在行っている捜査手法等について概観し,過去に取り扱った具体的事件にも触れながら,捜査機関の苦悩や今後の課題について述べる予定である。





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