下総精神医療センター

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第五回薬物乱用対策研修会 > 研修会プログラム > 第14講義

薬物事犯の裁判における弁護活動

奥田法律事務所 弁護士
奥 田  保

1.薬物事件裁判の問題点
  刑罰の軽重を争う点に重きが置かれ、薬物依存から回復する方法が軽視されているまた、刑事弁護の方法がパターン化している。

2.問題点に対する改善策
① 薬物依存からの回復には、治療が重要(事例によっては必須)であることを法律家に認識させていく必要がある。
② 被告人を犯罪人として弁護するという側面よりも、根が深い薬物依存者とみて、その回復の手立てを考える弁護が望ましい。
③ 症状が軽微な者から重度の者まで様々であり、精神病の疾病にある場合やそうでない場合など、事例ごと薬物依存の原因も様々である。
④ 薬物依存者の症状に応じて回復施設と連携し、それぞれの被疑者・被告人に応じたケアを行うべきと思われる。

3.刑事弁護の限界
 法律上弁護人の関わりは裁判確定するまでであり、判決確定後は、基本的・原則的には薬物依存者(被告人)に弁護人(弁護士)が関わることはない。
 また、弁護人が執行猶予で釈放された被告人や、実刑判決を受けた被告人の刑務所収容後の薬物依存からの回復のためのケアを行うことは難しいので、援助体系への援助をお願いしたいところである。

4.刑事弁護の限界に対する打開案
 起訴段階から、弁護士が刑事弁護を終えた後、継続的に被告人の治療に関わっていく機関との連携が必要なので、間接的ながら、その方と接触し維持する。

5.被疑者・被告人に治療・回復の機会を提供する方法
(1)被疑者段階(身柄)
 この段階では、援助体系と連携して治療・回復の機会を提供することは、逮捕・勾留が解消されない限り、援助体系との連携は通常期待できない。
(2)起訴後未決勾留の段階
ア.保釈制度の活用にあたっては、援助体系との連携が必要である。
(ア)保釈制度
(イ)保釈の事例紹介(横浜と東京の保釈例を紹介する。)
(ウ)保釈の限界
 執行猶予中の犯行については、裁判所は容易に保釈を認めない。執行猶予満了後でも、その満了後間もなくの犯行も同様である。
イ.回復措置
(ア)援助体系からの通信教育
身柄拘束中もアパリとコーディネート契約をし、回復のための通信教育を受けることができる。
(イ)ダルクへの通所・入寮、下総精神医療センターへの入院

6.裁判における弁護方法・目指すべき判決
(1)初犯の者
保釈申請し、援助体系と連携して治療を行い、その成果を裁判で報告する。
執行猶予付判決を導き、薬物治療・回復を行える環境を整える。
現在の裁判では、初犯の者はほぼ確実に執行猶予が付く。かつ、即決裁判制度の実施後、回復の措置を取る暇もなく釈放され、連絡が取れなくなる場合も多い。
もっとも、初犯でも重度依存の場合、弁護人のほうから保護観察付の執行猶予を要望することも考えるべきである。
(2)再犯の者
保釈を取ることができる場合は、保釈制度を活用しながら、援助体系と連携して治療を行う。
 ①保釈段階から、被告人を民間薬物依存症回復施設「日本ダルク・アウェイクニングハウス」やアパリと連携している下総精神医療センターにおいて治療を行い、公判において、その間の治療の成果・効果を裁判官に報告する。
 ②執行猶予の要件を満たす者については、再度の執行猶予を目指す。
 ③執行猶予の要件を満たさない者については、懲役刑の減軽を目指す。

7.第一審判決後の実刑判決後に保釈中の治療を継続する方法
 大維新実刑判決後の控訴後、再度保釈申請を行い、治療が終わった段階で控訴を取り下げる方針を検察官・裁判官にオープンにし、単純な裁判引き伸ばしのための保釈でないことを理解してもらい、保釈許可決定を得る。

8.今後の薬物事犯の裁判への対応
 裁判所に、薬物犯罪者を通常の犯罪者と同視するのではなく、心と体に病を持つもの、治療回復措置を必要としているものとみてもらうための努力をすべきである。
 さらに、薬物使用者の高齢化への対応を考慮すべきである。





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