下総精神医療センター

研修情報

第五回薬物乱用対策研修会 > 研修会プログラム > 第15講義

薬物事犯の審理,判決と課題

前橋地方裁判所
判事 半田靖史

第1 薬物の使用・単純所持事犯に対する量刑判断と審理
1 覚せい剤,大麻事犯の量刑動向(1970~2012)
 主刑の上昇,執行猶予率(初度・再度),保護観察率など
2 量刑の基本
 (1) 処罰の根拠,合憲性 最高裁大法廷 昭和31年6月13日判決(譲渡,譲受)
   名古屋高裁  昭和57年8月31日判決(使用,単純所持)
 (2) 行為責任と一般予防,特別予防
 (3) 段階的量刑 執行猶予⇒1年台実刑⇒2年前後実刑⇒・・・3年~実刑へ
3 量刑の要素
 (1) 起訴に係る使用回数,所持量,共犯事案では主導性,従属性
 (2) (同種)前科・前歴……段階的量刑の主要素
  *同種前科を有する者に対する執行猶予の可否
 (3) 常習性,依存性,中毒症状
    ……(2)の補充修正要素(前科はあるが中断長い,前科はないが常習性強い等)
 (4) 反省,更生意欲(薬物・不良交友の断絶意思)
 (5) 更生環境(就業,親族,雇用主等)
 (6) 猶予境界事案:刑の執行の弊害(本人,家族),事実上の制裁
 (7) 自主的な薬物依存離脱活動の実績,準備状況,履行の可能性
   ・・・…どの程度量刑を動かすか? 判決までの期間は短い。
4 裁量的保護観察の要否
5 公判審理の実情(自白事件)
 (1) 勾留・保釈の動向(1970~2012)
 (2) 審理パターン:第1回公判 検察官立証,情状証人,被告人質問で結審
    ⇒約10日で判決

第2 一部執行猶予制度の概要と展望
1「刑法等の一部を改正する法律」平成25年6月13日成立,同19日公布,3年以内施行 
(1) 初入者(薬物使用等の罪を含む)につき,3年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受けた場合に,
 犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して,再び犯罪をすることを防ぐために必要であり,かつ,相当であると認められるときは,1年以上5年以下の期間その刑の一部の執行を猶予することができる。
(2) 一部執行猶予期間中は保護観察に付することができる(裁量的)。
2「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律」
 成立施行日同上
(1) 対象 薬物使用等(使用及び単純所持)の非初入者
(2) 趣旨 薬物使用等の罪を犯した者が再び犯罪をすることを防ぐため,刑事施設における処遇に引き続き社会内における処遇を実施することにより規制薬物等に対する依存を改善することが有用であることに鑑み,刑法の特則を定める。
(3) 刑の一部の執行猶予の特則
 薬物使用等の罪を犯した者が,その罪又はその罪及び他の罪について3年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受けた場合において,犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して,刑事施設における処遇に引き続き社会内においても規制薬物等に対する依存の改善に資する処遇を実施することが,再び犯罪をすることを防ぐために必要であり,かつ,相当であると認められるときは,1年以上5年以下の期間,
 その刑の一部の執行を猶予することができる。
(4) 一部執行猶予期間中は保護観察に付する(必要的)。
2 展 望
(1) どのような薬物使用・所持者に適用するか? 
 刑事責任の重さ,施設内処遇の必要性,猶予取消の心理的強制下ないし保護観察下での社会内処遇の必要性・相当性などが考慮事情となる。
 ア 現在の実刑が軽くなる方向
   刑法:初犯だが所持量が多く実刑が必要な者⇒一部を猶予
   特別法:再犯者で実刑はやむを得ない者  ⇒一部を猶予
   *ただし,重い軽いは宣告刑の期間,実刑の期間の定め方にもよる
 イ 現在よりも重くなる方向
   刑法:犯情は悪い初犯者で,ぎりぎり猶予となっていた者⇒一部を実刑
   特別法:再犯者だが,何とか執行猶予になっていた者  ⇒一部を実刑
 (2) 宣告刑の長さ,実刑部分・猶予部分の長さ,猶予期間,保護観察の有無?
 (3) 保護観察は対応できるか?
 (4) 薬物事犯の審理は変化するか? 


              (平成24年版犯罪白書・参考)





ページのトップへ戻る