下総精神医療センター

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第五回薬物乱用対策研修会 > 研修会プログラム > 第3講義

取締機関における薬物乱用者対策について

警視庁組織犯罪対策第五課
銃器薬物対策第二係長
森  浩 史

 1 はじめに
 昨年11月に開催された第四回薬物乱用対策研修会において、「取締機関における薬物乱用者対策について」と題して、警視庁における薬物乱用者対策の取り組み状況について発表させていただく機会を得た。
 多分、同研修会に参加された方々は、警察における薬物乱用者に対する取り組みを検挙以外の形で実施していることをそれまで知らなかったのではと思う。
 そもそも警察は取締機関であることから、薬物密輸組織や密売組織の壊滅に向けた取締りによる薬物供給の遮断と、薬物の末端乱用者を検挙することにより薬物需要の根絶を図ること、つまり取締りを通じた薬物乱用者対策を推進する司法体系に属する取り組みがその主体となっており、薬物乱用者を対象とした再乱用防止対策を実施する体系ではないと多くの人が認識していたものと考える。
 以下、警視庁における薬物(再)乱用者対策についての取り組み状況について述べる。

2 警察庁のモデル事業としての出発
 平成19年に警察庁が再乱用防止対策の重要性を認識し、警視庁をモデルケースとして薬物再乱用防止教示プログラムを開始した。
 それは警察により逮捕された初犯の薬物被疑者のうち、執行猶予等が見込まれる者に、アパリでの定期的な面接に参加させ、薬物からの離脱に共助していこうとい う取り組みである。
 しかしながら、この取り組みは当初警察庁が期待した参加人員を獲得することができず、約1年半で予算が打ち切りとなり、制度としての取組みは終了してしまっ た。
 同プログラムに参加していた薬物乱用者から、同プログラムの継続を望む声があがり、予算措置が打ち切られた後も、自主的に警察署で行うセミナー形式の薬物再乱用防止対策、「NO DRUG警視庁」として生まれ変わり、現在では参加者80名近くになっている。
 この取り組みに参加している者は、警察に検挙された薬物乱用者であり、またその家族で構成されている。
 捜査員は事件の終結を待って、薬物使用者に再乱用防止に向けたセミナーへの参加を呼びかけるとともに、薬物使用者は、二度と薬物を使用しないためにそのセミナーへの参加を決意し、毎月一回警察署で実施する薬物再乱用防止セミナーに出席するようになる。
 警察は、同セミナーの主催者であることから、不定期に参加者の薬物検査を実施することとなっており、参加者全員が薬物検査に同意してセミナーに参加していることから否応なく検査の対象となる。
 つまり、再乱用の兆しがある場合は、それまでの薬物からの離脱支援から警察による取締りの対象へと移行するものであり、薬物乱用者が法による抑止力を感じる瞬間でもあると言える。
 このように、従前は、薬物乱用者を逮捕、起訴し、刑務所等の強制施設で処罰し、刑期を終えたら出所させるという仕組みだけであったが、現在は更生の援助をする取組みも始めているのである。

3 医療機関との連携
 日本における薬物事犯の検挙人員の約7割が覚醒剤事犯であり、その半数が再犯者であることは数値的に明らかであり、薬物依存症者の対策が今後の薬物乱用対策の大きな課題と言える。
 下総精神医療センターの平井先生の、「入院治療で治っても退院後に再び薬物を乱用することを繰り返す薬物乱用者を前にして、援助側の中だけの対応に問題を感じ、援助側から取締処分側への働きかけ、法による抑止力の設定、つまり「取締処分側と援助側の連携」が必要との理論」に私が賛同し、警察としては全国初の取り組みとして連携を図っている。
 つまり、薬物乱用者が治療のため病院に入院すると、警察官との面接を促し、定期的に警察官が病院に赴いて面接をする。
 面接においては、入院患者のこれまでの薬物使用状況や、住所、家族構成、電話番号などを聴取するとともに、退院後、薬物を使用した場合は警察により逮捕する旨を告げ、取り締まる側と取り締まられる側の立場を明確にし、法による抑止力を持たせるというものである。
 現実に、警視庁では毎月1回、下総精神医療センターに赴き、入院、通院患者と面接を実施しており、ここに取締処分側と援助側の連携を持つことができたと考えている。
 これまでの当庁におけるこれらの薬物乱用者対策を通じて、警察等の取締機関や、医療機関・行政機関等の援助する側が、薬物乱用者にいかに関心を持って接するか、治療や更生の道から外れそうになった時にいかに元のレールに戻していくかが重要なポイントであると考える。
 今後も警視庁としては、取締機関としての本来の法の抑止力を生かしながら、関係機関との積極的な連携を図り、薬物乱用者対策を推進し、全国警察の先駆になればと考えている。 





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