下総精神医療センター

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第五回薬物乱用対策研修会 > 研修会プログラム > 第6講義

援助側職員による対応を取締職員が補う処遇

下総精神医療センター
薬物依存治療部長 平井愼二

 1.目的
 援助側専門職は公益を最大に保つために対象者による規制薬物乱用を自発的に取締機関に通報すべきではないが、処遇に法による抑止力を設定する態勢をもたなければならない。
 なぜならば、法による抑止力は規制薬物乱用者の第二信号系に働きかけて、薬物使用を回避する思考をもたせる強力な効果をもつからである。また、一部の援助側専門職に生じる通報義務違反の違法性が、法による抑止力を設定する態勢により阻却されるからである

2.具体的な方法
法による抑止力を処遇に設定しようとする態勢は、具体的には、薬物検出検査を用いた援助側専門職による指導、並びに、援助側に関わった規制薬物乱用者に対する取締職員による面接により実現される。また、これらの実施は援助側専門職が対象者に対して十分な説明と必要な説得をもって働きかけ、対象者の自由意思によって成立するものである。
1)薬物検出検査
薬物検出検査を用いた指導の最大の目的は、検査の前の一定期間内に薬物乱用をすれば検査によって規制薬物自己使用という違法行為をしたことが明らかになるために、それを回避しようとする思考をより強く対象者にもたせることである。また、検査を受けるか否かは対象者の自由な意思で決定され、再乱用があっても援助者と被援助者の関係が維持されるようにするべきである。
従って、対象者が薬物検出検査を拒否しても、あるいは陽性の場合に自首しなくても、援助側専門職は対応を拒否してはならず、また、取締機関に自発的に連絡してはならない。ただし、対象者がすでに取締職員による捜査の対象となっており、取締機関から照会があった場合は回答するべきであり、これを怠れば、援助者と被援助者の共通の目的が薬物から離れることでなくなり、危険である。
薬物検出検査の用い方はここまで示したように受容的であるので、対象者のほとんどは薬物検出検査を受け入れる。受け入れなかった者に対しては家族や恋人に働きかけたり、生活保護を受けている者ならば福祉事務所に働きかけたりすることにより対象者が受け入れることが多い。
薬物検出検査を受け始めた者の多くは規制薬物を再び乱用せず、安定して経過する。

2)取締職員が参加した処遇
①取締職員との面接の開始
薬物検出検査を開始した者の一部には、薬物に重篤に条件付けられた者、精神的ストレスを受けやすい者、薬物使用の誘惑を受けやすい劣悪な環境にいる者などが含まれており、再度、規制薬物を乱用することもある。そのような者に対しては、取締職員と面接することを勧奨する。
取締職員に会うことを勧められた患者は直ちに逮捕されることを恐れることが多い。それに対しては、覚醒剤ならば摂取後、体内に残留する期間が約2週間であること、並びに、その2週間を経た早い時期に取締官に面会できること、つまり検挙される証拠がなくなった時点で取締職員に面会する計画を伝えると、患者は取締官との面接を受け入れることが多い。
取締職員は患者と面接し、事情を聴取し、後に面接を反復し、電話をかけ、当院に対して照会を行い、状況に応じて自宅訪問や捜査を実施し、検挙が可能となった場合には検挙する。多くの場合は、患者は検挙されることを回避するために、規制薬物乱用から離れる。
この処遇を、2000年から関東麻薬取締部職員と下総精神医療センターの間で開始し、現在は月に一度、当院に取締官が訪れ、患者と面接している。また、2012年からは警視庁と当院の間で同様の処遇を開始した。

②取締職員と面接した後の規制薬物使用への対応
取締職員と面接した後にも一部の者は規制薬物を乱用する。その場合には、援助側専門職は態勢を変化させず、それまでと同様に自発的には通報せず、対象者側の同意が得られれば検挙される証拠がなくなった早い時点で担当医から取締職員に連絡し、面接等の接触をするように依頼する。
一方、連絡を受けた取締職員はすでに面接した後に対象者がさらに規制薬物乱用を反復したことを知るために、より厳正な態勢をもって指導に当たることになる。この態勢の変化を対象者は意識し、薬物乱用回避のために入院や社会復帰施設入寮等のより濃厚な治療環境を受け入れる方向に向かうことが多い。
対象者の多くは取締職員と早い内に面接することを受け入れ、治療環境は法による抑止力がより強まったものになる。
対象者の一部は援助側専門職が取締職員に早い内に連絡することを受け入れない。この場合は、より長期間を経た後に取締職員が照会し、援助側専門職が対象者による再度の規制薬乱用を回答において初めて伝えることになり、早い時期における担当医による連絡の提案を対象者が拒否したことが取締官に分かる。そのような態勢をもつ対象者を注意人物として取締職員は把握することになり、より強い観察指導の対象となる。
あるいは、そのような予想を対象者に伝えることにより早い時期での担当医から取締職員への連絡を受け入れる対象者は少なくない。

3.期待できる効果
援助側専門職が自発的に通報しない態勢をもつことにより社会内にいる薬物乱用者が早く援助側に関わり、薬物乱用者は援助も上記の方法により法による抑止力も受け、薬物乱用から離れることが促進される。薬物乱用から離れない者に関しては検挙される可能性が高まる。





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