研修情報
第九回薬物乱用対策研修会 > 研修会プログラム > 第4講義
自助活動の歴史と存在意義
日本ダルク代表
NPO法人アパリ理事長
近藤 恒夫
1.日本の自助活動の歴史と求められる展開
1974年 最初のAAミーティングが東京の喫茶店で始まる
1975年 東京のスッテプミーティングで日本のAAが公式にスタート
アルコール依存症者のための治療共同体「大宮ハウス」創設
1978年 三ノ輪、大阪、山谷、スズラン(女性)、横浜、名古屋、札幌でMAC設立
1981年 日本で初めてのNA(Narcotics Anonymous)が東京で始まる
1985年 荒川区でダルク・ホーム開設
1989年 名古屋ダルク開設
1990年 横浜ダルク開設
現在 ダルク-----全国に61ヶ所87施設(40都道府県)
NA---------週537箇所(2017年10月)でミーティング
日本の社会は自助グループが育ちにくい。9時5時で終わり、長期休暇をもらえる職場はほとんどない。
薬物依存症者は「自己喪失感」を抱えている。自分を取り戻すことが回復だとしたら、矯正施設で指示通りに動くことを何年やらせても、過剰適応を習得するだけで自己喪失感はなくならない。本当の回復には新たなアイデンティティを構築し、自由、感謝、善意、創造性を育んでいけるような教育的な視点を取り入れていかなければならない。
ところが、こうした活動を行うようになってからダルクや自助グループに異変が起こってきたのである。問題は、家もない、金もない、何もなく再犯を繰り返し、ドン底の生活に慣れきってしまったような人たちがダルクを直接訪問するようになったことである。彼らはダルクのミーティングも知らないし、刑務所内のプログラムにも乗れないような人たちである。そういう人たちがダルクに集まってくるようになった。また、彼らは自助グループにも当然流れ込み、NAは荒れて、閉鎖しなければならないグループも出てきている。私たちは、このような人たちがダルクのみならず、自助グループすら破壊する能力を持っていることを認識しなくてはならない。
そして、ダルクのスタッフは彼らに生活保護をかけたりする仕事に忙殺され、本来の薬物依存リハビリテーションの仕事に手が回らなくなってしまう。これはダルクの危機である。
2.家族とダルクの関係
本来、家族は薬物依存症者の回復にとっては切り離すべき存在のはずであった。家族が当事者の尻をぬぐうことは必要ないばかりか、そのことで家族が当事者のイネイブラーになってしまう。ところが、あいもかわらず家族が当事者たちの支援をしているのが現状である。これは、ダルクが脆弱だったために、本来家族に担わせるべきでない仕事をやらせてしまったということであり、私の大きな過ちである。私はダルクを31年間、自助グループを36年間やってきたが、私にはそれを作った当事者としてダルクを正常化する責任がある。かつて、どこにも依存しないダルクを作りたいと考えた原点に回帰する意味も込めて。
3.国とダルクの関係
私は、ありえないことを実現するために、(国には)協力するけど、支配はされたくない。つまり中立な立場が維持されることが必要と考える。
刑の一部執行猶予制度によってやってきた利用者に対して、長期にわたるアセスメント(3ヶ月ぐらい)を行い、その後、ダルクやほかの施設へ受け入れてもらえる体制作りを目指す。今のところ、この体制作り以外、刑務所出所者のフォローアップの解決方法はないと考えている。
若い時代にクスリに触れてしまうと、リハビリテーションではなくハビリテーションになってしまう。すでに獲得される機能を再度回復させていく場合に使われる用語であるが、思春期にクスリに触れ続けてしまうと類義語は『療育』とされ、先天的な障害を持った方が社会生活を送るのになるべく不都合の無いようにするために行われるリハビリテーションが求められることになる。それほどまでに生きていくために必要なものが成長する機会と機能を奪われてしまう深刻な事態となる孤独であるからこそ仲間を求め、仲間の間に不幸にもあった薬物に通じてしまったのが薬物依存症者である。薬物が入り込む孤独、孤立を防ぐとともに、たとえば同じ問題を抱える少年たち、仲間たちが集える健康的な場所が必要であり、それをファシリテートできる大人たちの存在が不可欠である。
刑務所における薬物依存離脱指導や、中学、高校、大学などで正しい薬物の真実に対する理解を求める薬物問題講演会などに、全国各地のダルクの回復者が講演する機会を得ている。そして耳を傾けていただいた少年たち、保護者、先生の方々からは、決して薬物問題が特殊な一部の人々だけではないことに気付く。ダルクだけではなく、薬物問題を抱えた依存症から回復を目指す人々の話に耳を傾け、同時に縦割りでこぼれおちた存在を排除するのではなく、居場所、受け皿となる場所をつくり、縦割りを横に連携できるような環境が今、必要なのだと考える。
これからの社会を託される青少年たちを守るために、正しく薬物問題、そして薬物を求める人々が生まれる背景、環境要因なども正しく理解し、回復途上の方々の力も借りつつ話に耳を傾け、大切な若い心身を守る孤立を遠ざける環境づくり、社会の体制整備も重要である。私たちダルクも、できることがある限り協力させていただけたら幸甚である
4.薬物問題を持つ人々の少年時代の問題
①思春期の個性化(親離れ、集団化)の欠如
②人格の未発達(カリスマへの傾倒、逸脱行為)
③遺伝的要因
④環境適応能力の未発達(良い子であることに息切れする『過適応』)、または不適応
⑤アルコール問題を持つ家庭等、機能不全家族で育ったこと、虐待によるトラウマ
5.薬物依存者本人の要因
①思春期における、親が子供を支配する「親離れ」や、仲間がクスリを使っているためクスリを使わざるをえなくなる「集団化」
②親分やリーダーのもとに集い、自分で選択をせずに従順に従うような、カリスマに傾倒して逸脱行為に及ぶ「人格の未発達」
③親がアルコールや薬物、家族等への依存がある「遺伝的素因」
④アルコール問題を抱える家庭や、アダルトチャイルド(AC)の子供に多い、家庭の輪を乱すことのない「過剰適応(良い子の息切れ)」、または「不適応」
⑤虐待のある家庭における「トラウマ(PTSD・心的外傷後ストレス障害)」などの問題を指摘することができる。
6.薬物依存の環境要因
①社会や地域において薬物に対する正しい問題意識が行き届いているか。
②1日3食に渡り定期的に栄養価のバランスが行き届いた食事が得られるか、教育が受けられているか、いじめを受けていないか、などの社会的・経済的な貧困状況に置かれていないか。
③身近な場所や身近な人物などを通じ、薬物の入手しやすい状況がないか。
④薬物問題が浸透してしまうような「地域のコミュニケーションの減少」はないか。
⑤家族や地域住民がクスリに触れてしまう前に、気付くことができない「家族と地域の結び付きの弱さ」はないか。
子供の変化に気付いても、声を掛けないような「家族機能不全」はないか。
クスリに触れている子供にアドバイスすることで、家族関係に波風が立たないようにするといったような、誤った形で状況を肯定するような「家族の薬物使用への肯定的態度」はないか。
本来、安らぎの場所と感じられる家庭や仲間のいる学校などに居場所を見いだせないことからの「精神的・肉体的に安心できる場の減少」はないか。